買い物はエネルギーの交換だと思っています。特に自分にとって、大切なお買い物に関してです。その物自身から、そして売り手からパワーをもらっている気がするのです。自分がこれ!と思うものに対して、お金という対価を払う。そして、手にすることができる。
この過程に「高揚感」「嬉しい気持ち」「一歩踏み出した感じ」「頑張れそうな感じ」「願いが叶った感じ」そんな気持ちも含めて、大切に思っています。ここぞという時、みなさんは、どんな風にお買い物をしますか。
私と一着のコートの話
私が25歳の秋、あるセレクトショップでお買い物をしました。ビューティフルピープルのコート。その時は、ブランド名も知りませんでした。
秋晴れの休日、緊張しながらも初めて、1人で高速を運転して隣の県に出かけました。1人で高速道路を運転することが目標だったから。
「一人でも行ける」一人でも大丈夫だという自信が欲しかった。
そう、当時ひどく失恋した私。少しずつ回復した頃でした。そんな決意の元でドライブしたことが今では懐かしく思い出されます。高速ドライブにドキドキしながら、張り切って、スターバックスでフラペチーノを買ったのに、ハンドルを握る手に力が入りすぎて、全然飲めなかったなぁとか。
コートの話に戻ります。
通り沿いにある小さなセレクトショップ。
ガラス張りで一目でセンスの良さが感じられました。そして、ガラスの向こう側。
1着のコートに目が釘付けに。綺麗なキャメルで襟が可愛くて、ベルベット調の印象的なデザイン。
その場で動けなくなりましたが、入りにくそうな雰囲気。
店の扉を開けると、案の定、店員の目を集めてしまったけれど、コートのところへ一直線に向かいました。
この人から買いたいと思った
30代半ば程に見える女性スタッフ。ざっくりとしたグレーのニットに、大ぶりのシルバーのバングルがよく似合っていました。
「このコート、素敵ですよね。」
「カジュアルにもフォーマルにも合うので重宝しますよ。」
とてもナチュラルにコートの良さ、デザインだけでなくて使用するシーンや素材についても
様々な視点から、色々と話をしてくれました。
一番、心にまっすぐ届いたのは
「5年後、10年後も着られますよ」
その一言でした。
失恋したことによって、想像していた未来が停止していたその時。
そんなに先を思い描くことはできなかったけれど、いつかもっと大人になった頃、
その素敵なコートをまとっていたい。素敵な大人になりたい。
そんな事が沸々と思い浮かんだのです。
でも、なんせ高価でした。実はランチに一旦お店を出て、コートやブランドについて調べました。
セレクトショップで見た金額よりも、安く売られているオンラインストアも見つけました。
だけど、今この人から買いたい。その時は強く思ったのです。
好きなものはずっと好き。何年経っても。
結局、お店に戻ってコートを手にした私。
気持ちは晴れやかでした。
10年先はまだ想像できないから、まずは5年大切に着ようと決意しました。
30代になった今、あっという間に5回の冬を超えました。当時、思い描いたような大人になれているのか分からないけど、<不安で心細くて、でも少しドキドキして将来を楽しみにしていた。>そんな気持ちを思い出す、私にとって大切な1着。冬になって、コートを取り出す度、その時のことを思い出すのです。前に前に進もうとしていた25歳の私。そして、心細い冬を守ってくれたコート。
もちろん、今年もお世話になりました。早くクリーニングに出して、また来年。まだまだ着るんだからという気持ちです。なんだかんだで、10年はあっという間に来てしまいそう。
好きなものはずっと好き。心の奥底まで響いたお買い物は、何年経っても色褪せないと知ったのはこの時からです。
まとめ
「この人から買いたいな」の反対に「この人からは買いたくないな」もあります。今はオンラインで簡単に物を手にすることができる時代で、最安値だって見つけられる。日用品や普段着はそれでも良いかもしれないけれど、特別な時のお買い物。手にするに至るストーリーも含めて、大切に感じます。その物自身への思い入れも深くなる。結果的に長く大切にできる。これからも、そんなお買い物ができると良いなと思います。